朝の散歩に詠う

小さきを愛しく思う散歩路に紫の花の露に濡れおり
紺碧の空に届けと相聞の歌鮮やかに小鳥の唄う       
小さきは小さきなりに精一杯咲けば踏まずに朝の散歩路
恋しくばここに来たれよ人影の無くも花咲く朝の散歩路
遅咲きの桜の下の散歩路に雪かと紛う花びらの散る
散る花に咲いた意義など問い掛ける朝の散歩路小鳥の鳴き音
黄の花の小さく咲けど木の下の朝の光の心もとなく
生きること意義などあるか花々のひたすら咲けど見る人も無く
老木の苔むす中に若き芽の萌黄の色の愛らしきかな
小さくも既に悲しき性もちぬ「ひとり静かな」と花の名ゆかし
えんれいのつぼみ膨らみ春の来て北に生き居る我も嬉しき

つる梅もどき

花のない季節に紅きつる梅の手折れば絡む元木のままに
凍りつく冬を暖め抱きあう形のまま手折られてもなお
縋りつく情念雪に赤あかと冬を彩るつる梅もどき

北国の春

春風は生きるを許すと心地よく緑の草原渡り来るかな        
忍び寄る春は微かに匂い来て花の季節の喜び誘う
花の無き北の草原渡り行く鳥よ何処にねぐらのありや

雪が降る

数かずの別れは胸の奥深く閉ざして雪はさんさんと降る  
落ちてくる雪は胸にも積もり行く遠き彼方の鮮明な恋
無限なる雪は落ち来る果ても無くしんしん胸はまたも幻想
幻想の波間ゆらゆら漂いぬひとり遊びの北の越し方           

絵を描く

穢れ無き絵を描きたしとカンバスの真白き肌をしばし眺める     
何色も汚れていると思われて白でおずおず描いてみたりする
冴え渡る蒼き色を描きたせば胸に渦巻く黒の見え来る

ろうそく

ろうそくを重ねて灯す雪の夜に翼繕う弱き我らは
弱くとも重ねて灯すろうそくの炎確かにあかかりき

酔う

追い求む意義など忘れ紅き酒したたか飲んで今宵も過ぎぬ



ゆらゆらと夢かうつつか幻か遠き彼方に浮かぶ陽炎
夏もまた陽炎のごと過ぎ行けば悲しかるらんひとつ星見ゆ     
夏の夜の遠く花火のはじく音雨よ降るな逢う瀬の一夜
夏もまた何事もなく緩やかに時よ過ぎ行け寂しかれども
名も無くも命限りの紫は露に濡れ居る朝の涼しき

短歌30首・・2

霧の朝の散歩路

濡れ色の森に零れる陽の光楚々とも聞こゆ小鳥の鳴く音
身を焦がす蝉の時雨は唐突に静かな森の朝を破りぬ
濡れている震えているか紫の小花愛しき霧の朝にも

深緑の朝

我が越しの遥かなれども手を繋ぐ人影もなく深緑の朝

鳥の声

美しき鳥の鳴く音も煩悶の悲しみと聞こゆ緑深き朝
囀りは天然の楽の音木霊する癒しの森の緑深まり

紫陽花

オホーツクのブルー零して咲いた花紫冴えて夏を彩る
はなびらの薄きえにしの紅はみれん残して今朝も咲く
紫陽花の変わる彩り人の世の巡る情けと思えばいとし



密やかに声の聞ゆる野の花の生きよ生きよよ小さき命
黄の花のひとつ咲き居る早春の庭に優しき鳥の声する



忍び寄る秋の気配にひと夏のめくるめく思い鈴虫の鳴く
わがうちに涙の川の流れ居る秋はものこそ思うらしかな

わらべ歌

ささ舟の無事に付いたか夢乗せて子供の頃のあの無邪気さに

泣けと囁く

しどけなき紅の襦袢の小女郎の涙が如き雨の降る朝
濡れ色の朝の目覚めに窓越しの白き小花の微かに揺れる
ぼんやりと眺むる先に白き花揺れて微かに泣けと囁く 

メール
早朝の擬音ばかりのメール来て君の心の淋しさ届く

何ゆえに

白い花何故白く愛らしく寄り添い咲きぬ夏の初めに
黄の花の何ゆえ黄色く鮮やかに丘に咲き居る夏を待つ朝
黒い鳥何ゆえ黒く生まれ来た忌み嫌われし悲しき性に

旅人

オホーツクの春に旅人は感嘆の声上げ冬の厳しさ知らず
厳しくも人の心の温かきオホーツクの冬に参らせ給え

芍薬

あかあかと燃えて芍薬庭に咲く六月の空は紺碧に晴れて
咲けば散る実の頑なに芍薬は零れて匂う夏の近くに


闇の蝶

闇にとぶ心の蝶を帰す秋孤高の空に月は真白く

うらはら

黒ぐろと群なすさかな沈黙の湖底に秋のひかり届かず
うらはらの心で渡る桟橋の手すりゆらりと揺れた気のして

神の居る里

神居ますそんな気のする澄んだ日に車走らせ何処までも行く

猛吹雪の後に詠む  雪女

地吹雪は雪の女の泣き笑い恨みを込めて襲いかかりぬ
児を抱き雪の女の衣した命に代えて父は逝きまし
荒れ狂う雪の女の爪のあと青天の空の悲しき 嗚呼


天が裂け地が唸る慟哭の荒し人智を超えてただ呆然と
定かなきあの世とこの世一寸の闇微かに点滅の赤と青